こんな場面に覚えはありませんか。夕方、現地の保育園へお迎えに行きます。子どもは一日じゅう、現地のことばで友だちと遊び、歌い、おもちゃを取り合ってきました。帰り道に日本語で「きょうは何を食べたの?」と聞くと、質問はちゃんと伝わっています。でも、答えは現地のことばで返ってきます。「日本語で言ってみて」と促すと、ひとことだけ日本語が出て、またすぐ元のことばに戻ってしまいます。

週末には、日本のおじいちゃん・おばあちゃんとビデオ通話をします。画面の向こうからあれこれ話しかけられて、子どもはにこにこしながらうなずきます。けれど自分が話す番になると口ごもり、そばにいるママやパパのほうを向いて、現地のことばで話しかけてしまいます。通話は、みんなが思っていたより早く終わります。おじいちゃんもおばあちゃんも責めたりはしません。それでも、親の胸には小さなさみしさが残ります。

海外赴任中のご家庭でも、国際結婚で海外に暮らすご家庭でも、こうした場面は珍しくないと思います。アメリカでもヨーロッパでもアジアのどこかでも、違うのは子どもが園で話すことばくらいかもしれません。

園のことばはぐんぐん伸び、家のことばは縮んでいく

小さな子どもは、暮らしている土地のことばを驚くほど速く覚えます。園では朝から夕方まで、先生や友だち、歌やアニメを通してそのことばを浴びています。日本語の出番は、夕ごはんやお風呂、寝る前のひととき、そして週末くらいになってしまいます。

そのうちに、聞いてわかるけれど話せない、という状態になる子も少なくありません。子どものせいでも、親のせいでもありません。子どもは、いちばんたくさん聞いていることばを使っているだけです。

海外で育つ子どもにとっての日本語は、「継承語」と呼ばれることがあります。暮らしている土地で身につけたことばとは別に、家族から受け継いだことば、という意味です。子どもにとって日本語は、おじいちゃん・おばあちゃんや親せきと話すためのことばです。子守歌やわらべうた、親が小さいころに聞いた昔話のことばでもあります。そしていつか、本人が望めば、自分がどこから来たのかを知る入り口にもなります。

日本語を守るといっても、どちらかのことばを選ばせたいわけではありません。私たちが願っているのは、子どもがことばを「もうひとつ」持つことです。ふたつのことばの中で育ち、どちらの場所にも自分の居場所があると感じてくれたら、と思っています。

よく試される方法

近くに補習授業校の幼稚部や日本語の幼児教室があれば、週末に通わせるご家庭も多いでしょう。先生方や保護者の熱意に支えられた、貴重な学びの場です。ただ、どこの街にもあるわけではありませんし、3〜4歳の子を毎週末、遠くまで連れていくのは簡単ではありません。

家庭教師をお願いしたり、オンラインの個別レッスンを受けたりするご家庭もあります。小さな子に根気よく付き合ってくれる先生はありがたい存在で、その労力に見合った謝礼をお支払いするのは当然のことです。とはいえ、月謝は月ごと、年ごとに積み重なります。きょうだいが二人、三人いればなおさらで、どの家庭でも続けられる金額とは限りません。

親が自分で教えることを選ぶご家庭もたくさんあります。でも、仕事から帰って夕ごはんを作り、お風呂に入れたあとで、子どもと一文字ずつひらがなに向き合う気力が毎晩残っているとは限りません。小さな子に合う教材も見つけにくく、良い教材ほど月額課金つきだったりします。支払いをやめた月に、子どもの学びも止まってしまいます。

Dino Kids が生まれたわけ

Dino Kids の出発点は、まさにこの悩みです。子どもの母語をどう守るか、そして同じことで悩む保護者の方々をどう支えるか。子どもに家のことばで文字を覚えてほしい、昔話を聞かせたい。そしてその学びが、今月の支払いができたかどうかで左右されてほしくない。そう考えて作り始めました。

日本語の教材には、ひらがなとカタカナの表があり、字をタップすると読みかたと例のことばが聞こえます。書き取りは筆順どおりに進み、一画ずつ採点されます。桃太郎やかぐや姫など、日本の昔話を読み上げで聞くことができ、いま読んでいる文が光ります。文章にはふりがながついているので、ひらがなが読めるようになれば、ひとりで最後まで読むこともできます。昔話はウェブでも読めますので、お子さまと一緒にどうぞ。

私たちがいちばん大切にしているのは、おうちの人の声です。教材の読み上げを保護者の方ご自身の声で録音できるので、お子さまは家族の声で日本語を聞けます。おはなしも、1 文ずつ録音していけます。1 話そろえば、お子さまがそのおはなしを開いたとき、アプリの声の代わりにご家族の声で読み上げられます。録り終えるまでは、そのおはなしはこれまでどおりアプリの声で流れます。教材の録音も、まだ録っていない音はアプリの声のままなので、少しずつ、ご自分のペースで進めてかまいません。

教材のほとんどは端末の中に入っていて、通信がなくても使えます。おはなしも一度取り込んでおけば、一時帰国の飛行機の中でも聞けます。同じアプリには日本語のほかにベトナム語、英語、韓国語、中国語もあり、お子さまごとに学ぶ言語を保護者が選べます。英語圏で暮らす子なら、ひらがなと英語のアルファベットを同じアプリで並べて学べます。どちらかを取って、どちらかをあきらめる必要はありません。

こうしたことに、追加の費用はかかりません。サブスクリプションもアプリ内課金も広告もなく、お金を払うまで開けない教材もありません。サーバー、読み上げ音声、教材の費用は Digi Dinos が負担しています。Dino Kids は会社が社会に還元する取り組みで、収益源ではありません。

正直に言えば、アプリが支えられるのは一部分だけです。親やおじいちゃん・おばあちゃんの代わりにはなれませんし、先生や友だちのいる教室の代わりにもなれません。子どもの日本語を守るのは、結局のところ、親がそばに座って家のことばで話しかける時間です。アプリは、その時間をつくるきっかけになるように作っています。保護者の方が教材やおはなしをご自身の声で録音する。週に一度、お子さまができたことをアプリがお知らせするので、それを家族で一緒に見る。そんな使い方を思い描いています。

家でできる、小さなこと

私たちはことばの専門家ではありません。ここに挙げるのは、保護者どうしでよく話題になることです。ご家庭に合うものだけ、取り入れてみてください。

  • 毎日、日本語の時間を決めておく。長くなくてかまいません。夕ごはん、お風呂、寝る前の10分など、毎日あることが大切です。
  • 寝る前に昔話を読む。昔話には、海外の暮らしではなかなか出会わないことばが出てきます。田んぼ、井戸、お地蔵さま、鬼。
  • おじいちゃん・おばあちゃんの声を聞かせる。長い通話をたまにするより、短くても回数が多いほうが続きやすいものです。一時帰国のときや日本から遊びに来てくれたときに、おはなしをひとつ読んで録音してもらうと、あとから何度でも聞けます。
  • 無理強いしない、直しすぎない。子どもが現地のことばで答えたら、同じことを日本語でさらっと言い直して、そのまま会話を続けます。
  • 話そうとしたことをほめる。助詞がおかしくても、発音がたどたどしくても、それは子どもががんばって口にした日本語です。まず覚えていてほしいのは、日本語で話すのは楽しい、ということ。正しさはあとからついてきます。

同じ思いをお持ちなら

Dino Kids は、いまも少しずつ作り続けているところです。私たちだけでは、とても手が回りません。同じような悩みを持ち、このアプリを一緒に育てたいと思ってくださる方がいらっしゃいましたら、ぜひお話しさせてください。お子さまがアプリをどう使っているか、どこが使いにくいかを教えてくださる保護者の方。海外で子どもに日本語を教えていて、何が必要で何が足りないかをご存じの先生。子ども向けにおはなしを書いたり語ったりしている方、あたたかい声で読める方、翻訳や絵、プログラミングで力を貸してくださる方。ひとことのご意見でも、私たちには大きな助けになります。

dinokids@digidinos.com までご連絡ください。Dino Kids でできることは、紹介ページにくわしく載せています。もしアプリがご家庭の役に立ったら、同じように海外で子育てをしているご家庭にも、ぜひ教えてください。