年中さんになるころ、家にはなぞり書きのドリルが1冊、2冊と増えていきます。夢中で何ページも進める子もいれば、2ページでえんぴつを放り出す子もいる。お姉ちゃんのまねをして4歳で「字を書きたい」と言う子もいれば、5歳になってもえんぴつをグーでにぎっている子もいます。そこで保護者の方が気になるのは、ひらがなのなぞり書きは何歳から始めればいいのか、そして最初から正しく身につけるにはどうすればいいのかということでしょう。

文字を「見て分かる」ところまでは、ひらがなの教え方の記事でお話ししました。この記事はその続きで、「手」の話です。手の準備ができたかどうかの見分け方、えんぴつの持ち方、なぞり書きから自分で書くまでの進め方、そして紙のドリルとアプリのなぞり書きの違いをまとめます。

なぞり書きは何歳から? ひらがなが書けるようになる時期

文部科学省の幼稚園教育要領は、文字について「書けるようにする」とは書いていません。求めているのは、生活や遊びの中で文字に親しみ、文字に対する興味や関心をもつことです。ひらがなの書き方をひとつずつ学ぶのは、小学1年生の国語の時間です。1・2年生の書写には「姿勢や筆記具の持ち方を正しくして書くこと」「筆順に従って丁寧に書くこと」が並んでいます。入学前の準備全体については小学校入学準備の記事をご覧ください。

ですから、3〜4歳はお絵かき、ぬり絵、ぐるぐる描きが本番の時期で、それで十分です。自分の名前を書きたがったり、なぞり書きを楽しんだりする子が増えてくるのは、年中から年長、4〜5歳ごろでしょう。

ただ、年齢はあくまで大まかなめやすです。「4歳でひらがなが書けない」と心配になったら、年齢よりも、その子の手が、字を作っている線をもう描けるかどうかを見てください。「し」は縦の線と曲がり、「た」は縦と横が交わる線、「め」は斜めの線が交わります。斜めの線がまだ描けない手に「め」をなぞらせるのは、少し荷が重い作業です。

手の準備のめやす:「×」が描けるか

小児科や作業療法で使われる視覚と運動の発達検査(Beery VMI など)では、子どもがお手本の形をまねして描けるようになる順番が、かなりそろっています。

  • 2〜3歳ごろ:縦の線、横の線、そして丸。
  • 4歳ごろ:十字(+)。
  • 4歳半〜5歳ごろ:斜めの線、四角、ばってん(×)。
  • 5〜5歳半ごろ:三角。

Weil と Amundson(1994)は米国の幼稚園(kindergarten)の子どもたちを調べ、この検査のはじめの9つの形、つまり×までをまねして描ける子は、まだ描けない子より文字を書き写すのがはっきり上手だったと報告しています。そのため、海外の作業療法士の間では「×が描けるか」が、書く練習を始めるめやすとしてよく使われています。

家でもすぐ試せます。子どもの前で×をゆっくり描いて見せ、えんぴつを渡して、となりにまねして描いてもらいましょう。斜めの線2本が真ん中で交われば、手の準備はもうすぐです。まだなら、お絵かきやぬり絵、粘土遊びをあと数か月。それは遅れではなく、準備の時間です。

えんぴつの持ち方:にぎり持ちから3本指へ

えんぴつの持ち方は年齢とともに変わっていき、どの段階もその時期には自然なものです。Schneck と Henderson(1990)は3〜7歳の子ども320人を観察し、持ち方が次のように進んでいくことを示しました。

  1. 手のひら全体でにぎる(1〜2歳ごろ):えんぴつがこぶしの中にあり、腕全体で動かす。
  2. 指を上からかぶせる(2〜3歳ごろ):手の甲が上を向き、指がえんぴつの上にのる。
  3. 3本指だけれど、まだかたい(3歳半〜4歳ごろ):親指・人さし指・中指で持つが、線は手首ごと動かして描く。
  4. 3本指で指先が動く(4歳半〜6歳ごろ):手首は机に置いたまま、指先でえんぴつを動かす。

なぞり書きを始めるころの目標は3〜4の段階です。横で何度も直さなくても、そこへ近づける工夫があります。

  • 短いえんぴつやクレヨン:折れたクレヨンや短くなったえんぴつは、こぶしでにぎる長さがないので、指が自然と3本の形になります。
  • 立てた面に描く:壁や冷蔵庫に紙を貼る、イーゼルを使う。立てた面だと手首が書くときの角度に起きます。
  • 小さなものをつまむ遊び:豆をトングでつまむ、ボタンをとめる、紙をちぎる、粘土をこねる。どれも指先の練習です。
  • 何度も直さない:始めに一度だけ声をかけ、正しく持てたときにほめる。ずっと直され続けると、手が慣れる前にえんぴつが嫌いになってしまいます。

書くときは、字のきれいさより先に三つ。背すじをのばして足を床につける。紙は体の正面に置いて、もう一方の手でおさえる。そして線は上から下へ、左から右へ。

なぞり書きから自分で書くまで:4つのステップ

市販のドリルは、たいてい線や曲線をなぞる「運筆」から始まり、ひらがなへ進みます。この順番は理にかなっています。ただ、なぞり書きは入口です。なぞるのは用意された線をたどること、書くのは字の形を思い出して自分で線を置くことです。家では次の4つのステップで進めてみてください。

  1. 書くところを見る:大人がゆっくり書きながら「上から、下へ、くるっと右へ」と声に出す。
  2. なぞる:点線やうすい字を、正しい向き・正しい書き順でなぞる。
  3. 見て書く:お手本を横に置き、なぞる線のない空いたマスに自分で書く。
  4. 自分で書く:お手本を見ないで書く。たとえば描いた絵に自分の名前を書く。

ステップ2に長く留めすぎないことが大切です。ひとつの字を3〜4回きれいになぞれたら、見て書くほうに進みましょう。自分で書いた字がなぞった字よりがたがたなのは当たり前で、そのときこそ手が自分で学んでいます。ひらがなの教え方の記事で紹介した James と Engelhardt(2012)の研究でも、読むことに関わる脳の部位は、お手本をなぞったあとより自分で書いたあとのほうがよく働いていました。

ひらがなはどの字からなぞる? 書き順のこと

50音表の「あいうえお」順に進む必要はありません。その子の手がもう描ける線でできた字から始めましょう。

  • 1〜2画の、まっすぐやゆるい曲線の字:「く」「し」「つ」「へ」「こ」「い」「り」。
  • 縦と横が交わる字:「た」「な」「き」「さ」「も」。十字が描けるようになったころに。
  • 斜めに交わる字、小さな輪(結び)のある字:「あ」「め」「ぬ」「ね」「る」「む」。×が描けるようになってから。
  • 濁音・半濁音、小さい「ゃ・ゅ・ょ・っ」:もとの字に慣れてから。

例外は自分の名前の字です。描いた絵に名前を書きたいという気持ちは、どんな順番よりも強い原動力になります。

ひらがなは書き順どおりに書くと形が整います。「も」「や」「を」などは、書き順をまちがえて覚えやすい字としてよく挙げられます。最初になぞるときに正しい順番で覚えてしまえば、あとで直す手間がありません。

1回の時間と、がんばらせすぎのサイン

4〜5歳なら、1回5〜10分を週に何回かで十分です。まだ書きたがっているうちにおしまいにすること。急いで3ページより、ていねいに1ページです。

次のようなようすが見えたら、ペースを落としましょう。

  • 肩に力が入る、紙が破れるほど強く押しつける、手が痛いと言う。
  • ドリルを見ると逃げる、泣く、やる前から「できない」と言う。
  • 大人がそばで見張っていないと続かない、ごほうびを約束しないと座らない。

これは多くの場合、怠けているのではなく、手の準備がまだか、量が多すぎるというサインです。しばらくお絵かきや粘土、ぬり絵に戻って、また試してみてください。

紙のドリルとアプリ、なぞり書きの使い分け

それぞれ得意なことが違います。

  • 紙と本物のえんぴつ:押す力、紙との摩擦、えんぴつの持ち方と支え方を、手が覚えます。小学校で毎日使うのはこちらで、画面では代わりがききません。
  • 画面と指:どこから書きはじめ、どちらへ進むかがすぐ分かり、字の読み上げもあり、消しゴムで紙を破らずに何度でもやり直せます。まだえんぴつを上手に持てない3〜4歳でも、字の形と書き順の練習ができます。

おすすめは、書き順は画面で、手は紙で、という分け方です。アプリで「あ」を何回かなぞって書き順を覚えたら、えんぴつで紙に「あ」を書いてみる。3本指で持てるようになった子なら、iPad では Apple Pencil を使うと、指よりえんぴつに近い感覚でなぞれます。

無料のなぞり書きアプリ Dino Kids「もじを かこう」

Dino Kids の「もじを かこう」は、まだ字が読めない子でもひとりで練習できるように作りました。

「もじを かこう」の画面。「もじを えらぼう」の下に、「ひらがな」(104)と「カタカナ」(46)の2枚のカードが並んでいる
ひらがな104字とカタカナ46字から選びます
  • ひらがな104字・カタカナ46字:ひらがなは清音46字に、濁音・半濁音25字と拗音33字。カタカナは清音46字です。どちらも「あ行」「か行」のように、行ごとに5字ずつ進みます。
  • 一画ずつ:番号のついた緑の点が書きはじめの場所、線にそって動く矢印が書く向きを教えます。画面の上には「1かくめ / ぜんぶで 3かく」と、いま何画目かが出ます。お手本の書き方を見直すボタン、字を読み上げるボタン、やり直しのボタンがあり、下には例のことばが出ます。
  • 星が0個になることはありません:赤い線も「×」も出ません。何度かずれたときは、矢印をもう一度見せて、少しずつなぞりやすくします。投げ出さずに最後まで書けるようにするためです。
  • 指でも、Apple Pencil でも:小さな子は指で、大きくなったら iPad で Apple Pencil を使えます。
「あ」をなぞる画面。上に「あ ・ 1かくめ / ぜんぶで 3かく」、マス目の上に1画目の横線と番号1の緑の点、下に例のことば「あめ」と、読み上げ・もどる・つぎへのボタン
1画目は、緑の点「1」から書きはじめます

ひらがなに慣れたら、漢字の書き順も同じようになぞれます。レベル1(小学1年生の80字)からレベル10まで、全部で2,141字です。英語や韓国語、中国語も学んでいる子は、アルファベット、ハングル、中国語のはじめの漢字のなぞり書きもできます。

アプリにできないこともはっきりしています。紙の上のえんぴつと、絵のすみに一生けんめい自分の名前を書く時間です。画面は字の形と書き順を覚える手伝いで、えんぴつに慣れる手は、紙の上で育ちます。

Dino Kids は無料で、広告もアプリ内課金もなく、アカウントなしで使えます。ほとんどの教材は通信なしでも動きます。詳しくはひらがな・書き取りのページをご覧ください。お手本の形が気になる字や、ほしい練習の種類があれば、dinokids@digidinos.com までお知らせください。

参考文献

  • 文部科学省「幼稚園教育要領(平成29年告示)」第2章 言葉。
  • 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」第2章 第1節 国語、第1学年及び第2学年の書写に関する事項。
  • Weil, M. J., Amundson, S. J. C.(1994)Relationship between visuomotor and handwriting skills of children in kindergarten. American Journal of Occupational Therapy, 48(11), 982–988.
  • Schneck, C. M., Henderson, A.(1990)Descriptive analysis of the developmental progression of grip position for pencil and crayon control in nondysfunctional children. American Journal of Occupational Therapy, 44(10), 893–900.
  • Beery, K. E., Buktenica, N. A., Beery, N. A. Beery-Buktenica Developmental Test of Visual-Motor Integration (Beery VMI). Pearson.
  • James, K. H., Engelhardt, L.(2012)「The effects of handwriting experience on functional brain development in pre-literate children」Trends in Neuroscience and Education, 1, 32–42.