ノートのすみにずっと絵を描いていた子が、高学年になったある日から描かなくなります。消しゴムで紙が毛羽立つまで直して、「なんか違う」と言って丸めてしまう。美術の課題を見せてくれなくなった中学生もいるでしょう。「絵が下手だから」と本人は言いますが、国立教育政策研究所の調査では、中学3年生の90.6%が「自分が思うように絵が描けるようになりたい」と答えています。描きたくないのではなく、描きたいのに、どう練習すればいいか分からない子が多いのです。
この記事では、10〜14歳に何が起きているのか、中学校の美術で何を習うのか、デッサンをどんな順番で練習すれば遠回りが少ないのかをまとめます。後半では、私たちが作っている無料アプリ Dino Kids の「じょうきゅう おえかき」について、1つのレッスンの流れと32のレッスンの全体をくわしく紹介します。
絵が下手と感じはじめる時期:10〜14歳に起きていること
小さいころの絵は、描きたいものが伝われば満足でした。ところが小学校の中ごろから、子どもは「本物に見えるか」で自分の絵を判定しはじめます。Davis(1997)の論文は、8〜11歳ごろになると、写真のように似せなければという気持ちが強まり、幼児のころののびやかな絵が影をひそめるという見方を取り上げています。
判定の基準は上がるのに、手に入れる方法は自然には身につきません。Toomela(2003)は2〜13歳の子ども757人と大人232人に、机の上の立方体を見て描いてもらいました。上の面と横の2面が見える置き方で、奥行きのある形として描けた割合は、次のとおりです。
- 10歳:8%
- 11歳:27%
- 12歳:42%
- 13歳:55%
- 大人:75%
13歳でも半分ほど、大人でも4人に1人は描けません。立方体が描けないことは、少しも特別ではないのです。遠近についても、Lee と Bremner(1987)は、机の絵を調べて、年長の子の多くは遠近らしく描こうとするものの、正しくは使えていなかったと報告しています。
では何がじゃまをしているのでしょうか。Cohen と Bennett(1997)は大人を対象に、絵のまちがいの原因を切り分けました。手の動きの不器用さはほとんど関係がなく、いちばんの原因は描く対象の見まちがいでした。頭の中の「箱は四角い」が、目の前の形を上書きしてしまうのです。「手先が不器用だから」とあきらめる必要はない、ということでもあります。練習するのは、まず手より目です。
図工から美術へ:中学校の授業で習うこと
小学校の図画工作では、高学年で「動き,奥行き,バランス」を学びます。中学校の美術は、ここから「立体感や遠近感」へ進みます。学習指導要領の解説は、第1学年で「大まかな遠近感や簡単な立体感も表せるよう指導する」とし、鉛筆を物差しにして、近くと遠くのものの大きさや傾きを測って比べる方法を例に挙げています。スケッチについては、描く力とともに見る力や感じ取る力を育てるものとして、学習に取り入れるよう求めています。
ただし、授業の時間は多くありません。第1学年は年間45単位時間で、解説自身が一つの題材に充てる時数は少なくなると書いています。解説の本文には「透視図法」「デッサン」「陰影」という言葉は出てこず、どこまで扱うかは学校や題材によって変わります。京都教育大学で公開されている平成19年の学習指導案では、第2学年で「生徒が初めて美術の領域で図法を学び」、一点透視図法などを全10時間の題材で扱っています。
つまり、デッサンの基本を学校で順番にひと通り教わるとは限りません。家で補いたいと感じたら、次の順番を使ってみてください。
デッサンは何から練習する? 立体、陰影、透視図法、人物の順
おすすめの順番はこうです。
- 箱と筒:立方体、円柱の形をとる。
- 陰影:光を1つに決めて、明るさを分ける。
- 透視図法:目の高さと消失点で、空間を組み立てる。
- 人物:動き、骨組み、かたまりの順で作る。
形が合っていない絵に影をつけても、形はよくなりません。だから陰影は形のあと。人は形も光も遠近も全部かかわるので最後です。鉛筆1本とコピー用紙で始められます。
立方体と円柱の描き方
身近な箱から始めます。牛乳パックやティッシュの箱を机に置いて、斜め上から見ます。
- うすい線でさがす:最初から濃く描かず、形をさがす線をうすく何本も引きます。合った線だけあとから濃くします。うすい下描きがあると、消しゴムの出番はへります。
- 奥へのびる辺はそろえる:本を机に置いて、奥へのびる2本の線を同じ向きに引くと、表紙が斜めの四角になります。
- 円柱の口はつぶれた丸:紙コップを見ると、口の丸は楕円に見えます。目の高さに近いほど細く、低くなるほど丸く開きます。底の丸は口より丸く見える、と確かめてください。
陰影の描き方:光は1つ、明るさは3つ
机のスタンドを1つだけつけて、白い箱やボールを置きます。光を1つにすると、明るい面と暗い面がはっきりします。

最初は、いちばん明るい、中くらい、いちばん暗いの3つの濃さに分けるだけで十分です。細かいところからぬらず、大きく明と暗に分けてから中を整えます。
日本語には「陰」と「影」の2つの字があります。ものの光が当たらない面にできるのが陰、机や地面に落ちるのが影で、デッサンではこの区別が役に立ちます。ボールやオレンジなら、光にいちばん近い「ハイライト」と、暗い側のふちが机からの反射で少し明るくなる「反射光」も探してみましょう。
透視図法:一点透視図法から二点透視図法へ
まず、目の高さが地平線だと覚えます。線路の写真を見ると、平行なはずのレールが遠くの1点に集まります。これが消失点です。
- 一点透視図法:学校の廊下や線路のように、正面を向いた景色。奥へ向かう線はみんな1つの消失点へ、ドアの縦の線は縦のまま。
- 二点透視図法:建物の角を見ているときの描き方です。2つの面が、地平線の両はしにある2つの消失点へのびます。
一点透視図法で部屋や廊下が描けてから二点に進むと、迷いません。街角の絵をひとつ描くときは、目の高さの線は1本だけ、と決めるのがコツです。
人物:動きの線、骨組み、かたまり
人は最初から輪郭をなぞらず、全身の動きを1本の曲線でさっと描きます。次に肩、ひじ、腰、ひざの関節を点にして棒でつなぎ、頭は卵、胸と腰は箱、手足は筒で組み立てます。美術用品店にある木の人形(デッサン人形)は、この練習のためのものです。

大きさは頭を物差しにします。大人はだいたい頭7つ半、6歳の子は頭6つくらいです。立ち姿がぐらつくときは、首のつけ根から糸を下へたらしてみましょう。その線が支えている足に落ちれば、安定して見えます。
親ができること、しないほうがいいこと
中学生にもなると、親に見られること自体がいやな子もいます。無理に見ないことも手伝いのひとつです。
- 「写真みたい」を目標にしない:写実だけが絵ではありません。漫画、デザイン、抽象の好きな子にも、形を見る練習は役立ちます。
- SNS の上手な絵とくらべない:くらべる相手は、3か月前の本人のスケッチです。スケッチブックを捨てずに重ねておくと、本人が気づきます。
- 短く続ける:1日10分、箱を1つ。週末に2時間より残ります。
- 「下手」と言わない、本人の「下手」に同意しない:「このへりの向き、前より合ってるね」のように、見えた変化だけを言います。
- もっと学びたそうなら:絵画教室や美術部は、人に見てもらえる場所として力になります。
同じ調査で、「美術の学習が好きですか」に肯定的に答えた中学3年生は74.6%でした。美術を嫌いになったと決めつけなくて大丈夫です。
無料のデッサン練習アプリ Dino Kids「じょうきゅう おえかき」
Dino Kids の「びじゅつ」には、「かきかた れんしゅう」のすぐあとに「じょうきゅう おえかき」があります。この記事で書いた「箱と筒、陰影、透視図法、人物」の順番を、そのままレッスンにしたものです。小さな子向けのかきかた れんしゅうの6つのレベルの続きで、レベル 7 から始まります。
- 32のレッスンを、4つのレベル(レベル 7〜10)に8つずつ分けています。
- 1つのレッスンで1つの見方を扱い、見方は全部で32。描く手順は全部で250です。
- すべてのレッスンに「やってみよう!」があります。ライトを動かして影を走らせる、消失点を引っぱる、箱を回す、目の高さを上下させる、頭の物差しをずらす、といった、手で動かして確かめる遊びです。
どのプロフィールからでも開けて、かぎはかかっていません。最初に「ここは おにいさん おねえさん むけだよ。やってみたかったら かいてみてね!」と出ますが、弟や妹がやってみたいなら、そのまま描けます。

1つのレッスンの流れ:「せんろ」の場合
レベル 9 の「せんろ」を例に、1つのレッスンを順に追ってみます。透視図法の入り口になる、消失点のレッスンです。
- 「やってみよう!」:「しょうしつてんを ちへいせんに そって うごかして、せんろが ついてくるのを みよう!」。地平線の上の点を指で動かすと、線路がその点についてきます。言葉で習う前に、レールが1点に集まる様子を手で確かめます。
- 「しってる?」:そのあとに短い話が読み上げられます。「せんろの レールは へいこうなのに、とおくを みると ちへいせんの うえの ひとつの てんに あつまるよ。その てんを しょうしつてんと いうよ。」
- 順番に描く:手順は7つです。「ちへいせんを ひこう。」「ちへいせんの うえに しょうしつてんを うとう。」「したの はしから しょうしつてんへ せんろを にほん ひこう。」「せんろを またぐ よこの まくらぎを ひこう。とおいほど つまるよ。」「とおくの でんしゃを しょうしつてんの ちかくに かこう。」「こい せんで なぞろう。」「したがきを そっと けそう。」
- くらべる:描き終えると、「がかの え」と「きみの え」が並びます。「がかの え」は手順どおりに描いたお手本で、自分の線とどこがちがうかを見くらべられます。「きょう まなんだ こと: しょうしつてん」も出ます。
- しまう:「えの おへやに しまう」で、描いた絵を「えの おへや」に残せます。

描くときの道具は、紙の上のデッサンと同じ考え方です。鉛筆は「うすい えんぴつ」「ふつうの えんぴつ」「こい えんぴつ」の3本から選び、下描きはうすく、仕上げはこく引きます。補助線は「したがきを だす」「したがきを かくす」で出したり消したりできるので、消失点へ向かう線を確かめてから、また消して絵だけを見ることができます。
4つのレベルと32のレッスン
年齢は、私たちがレッスンを作るときに考えためやすです。かっこの中が、そのレッスンで学ぶ見方です。
レベル 7(10〜11歳ごろ):箱、筒、球
最初は形をとる練習です。「ぎゅうにゅうの コップ」の「やってみよう!」では、「コップの くちを だんだん かたむけて、まるの かたちを みてみよう!」と、丸がつぶれていく様子を見ます。
- プレゼントの はこ(おくゆきの ある かたち)
- ぎゅうにゅうパック(うすい したがき)
- つくえの うえの ほん(おなじ むきの へりは へいこう)
- ぎゅうにゅうの コップ(ななめに みた まるは つぶれた まる)
- さんだんの バースデーケーキ(めの たかさで まるが ひらく)
- ちきゅうぎ(ボールと まわりの せん)
- かたちで できた いえ(かたちを くみあわせて つくる)
- つくえの うえの もの(さきに おおきな わく)
レベル 8(12歳ごろから):光と影
光を1つに決めて、明るさを分けます。ぬる手順では「くらい めんは こい えんぴつ、まんなかの めんは ふつうの えんぴつで ぬろう。」のように、面ごとに鉛筆を持ちかえます。「こうていの ボール」では「おひさまを みぎ ひだりに うごかして、ボールの かげが どこへ いくか みよう!」と、落ちる影が光の反対側にできることを確かめます。
- ライトの したの プレゼント(ひかりの もと)
- みっつの こさの ぎゅうにゅうパック(みっつの こさ)
- えんぴつたて(まるい ものに できる かげ)
- オレンジ(ぴかっと ひかる ところと はねかえった ひかり)
- こうていの ボール(おちる かげ)
- ゆうがたの いえ(ひくい ひかりで ながい かげ)
- おつきみの よるの ちょうちん(あかるさの ちがいで めだつ)
- かげの ある みっつの もの(あかるい ところと くらい ところに わける)
レベル 9(12〜13歳ごろ):遠近と透視図法
目の高さの線から始めて、一点透視図法、二点透視図法へ進みます。「かどから みた プレゼント」では「はこを まわして、しょうしつてんが ふたつに わかれるのを みよう!」と、一点から二点に変わる瞬間を見ます。
- うみと すいへいせん(めの たかさの せん)
- せんろ(しょうしつてん)
- がっこうの ろうか(しょうしつてんが ひとつ)
- としょかんの ほんだな(めより うえ、めより した)
- みちの がいとう(おなじ ものが とおくへ ならぶ)
- かどから みた プレゼント(しょうしつてんが ふたつ)
- かどの いえ(ななめの せんで まんなかを みつける)
- まちかどの しょうぼうしょ(ひとつの えに めの たかさは ひとつ)
レベル 10(14歳ごろから):人物と構図
動きの線、骨組み、かたまりの順に人を組み立てます。「こうじの おじさん」では「あたまの ものさしを したへ ずらして、なんこぶんか かぞえよう!」と、頭の高さで体を測ります。人物は服を着た人か、木の人形(デッサン人形)です。
- はしる ともだち(うごきの せん)
- てを ふる もくせいにんぎょう(ふしと ぼうで ほねぐみ)
- にんぎょうを かたまりで つくろう(あたま、むね、こしは みっつの かたち)
- こうじの おじさん(あたまで からだを はかる)
- おとうさんと こどもと いぬの さんぽ(こどもは あたまの かずが すくない)
- ボールを ける こ(ぐらぐら しない たちかた)
- こうえんを わくで きりとろう(わくで きりとる)
- でんきの そばで ほんを よむ こ(ならべかたから しあげまで)
最後のレッスン:4つの段階で1枚を描く
レベル 10 の最後「でんきの そばで ほんを よむ こ」は、ここまでのまとめです。「しってる?」では「デッサンは よっつの じゅんばんで かくよ。ならべかた、かたちを とる、あかるさを わける、しあげ。この えでは よっつ ぜんぶ やってみよう。」と話し、画面の段階は「こうず」「かたちを とる」「ひかりと かげ」「しあげ」と進みます。描く手順は9つです。
- ぜんぶが はいる わくを、かみに ちょうど よく ひっぱろう。
- うごきの せんを さっと かこう。
- ぼうにんげんと かたまりを つくろう。
- あたまの ものさしを おろして、なんこぶんか かぞえよう。
- こい せんで なぞろう。てまえの ものから かくよ。
- くらい ところと おちた かげを ぜんぶ ぬろう。
- すこし くらい ところは ふつうの えんぴつで ぬろう。
- ほんの いちばん あかるい ところを けしゴムで ちょんと けそう。
- したがきを そっと けそう。
レベル 7 で覚えた大きな枠、レベル 8 の明暗、レベル 10 の動きの線と頭の物差しが、1枚の中で全部使われます。
アプリでは扱わないこと
足りないところも書いておきます。
- 色は扱いません。鉛筆の濃さだけです。
- 筋肉などの解剖、細かい顔の描き方、三点透視図法はありません。
- 人物は服を着た人か木の人形です。
- 画面の小さな機種では、「がめんが ちいさいので、かみも とても ちいさく なるよ。もっと おおきい がめんで かいてね。」と出ます。できればタブレットなど大きい画面で描いてください。
失敗の扱いはアプリ全体と同じで、赤い線も「×」もなく、星は0になりません。描ききれないときは、アプリが手伝って次へ進みます。
指での描画は、紙の上の鉛筆と同じではありません。アプリで順番と見方を知ったら、同じ箱を机に置いて紙に描いてください。そこで初めて、手が覚えます。小さいころの絵についてはお絵描きの記事にまとめています。
知っておきたいこと
- 32のレッスンはアプリの中に入っています。読み上げの声は、はじめて使うときに通信で取り込みます。
- 「じょうきゅう おえかき」はアプリ全体と同じく無料です。広告もアプリ内課金もなく、アカウントなしで使えます。Dino Kids は Digi Dinos が社会のためにつくっている製品で、収益のためのものではありません。
- 見当たらないときは、アプリを最新の版にアップデートしてください。
- 学校の授業の内容は、学校と題材によって違います。この記事の順番は、授業の予習ではなく、家で練習するときのひとつの案です。気になる説明や、ほしい題材があれば、dinokids@digidinos.com までお知らせください。
参考文献
- 国立教育政策研究所「特定の課題に関する調査(図画工作・美術)調査結果(小学校・中学校)」平成22年。中学校第3学年、約3,300人、平成21年実施。
- 文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 美術編」。
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 図画工作編」。
- 京都教育大学「第2学年美術科学習指導案」。
- Toomela, A. (2003). Developmental stages in children's drawings of a cube and a doll. TRAMES, 7(3), 164–182.
- Cohen, D. J., Bennett, S. (1997). Why can't most people draw what they see? Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 23(3), 609–621.
- Davis, J. H. (1997). Drawing's demise: U-shaped development in graphic symbolization. Studies in Art Education, 38(3), 132–157.
- Lee, M., Bremner, J. G. (1987). The representation of depth in children's drawings of a table. The Quarterly Journal of Experimental Psychology Section A, 39(3), 479–496.