2年生の秋、ランドセルから九九カードが出てきます。お風呂で「しちいち が しち、しちに じゅうし…」と上から唱えるのはすらすら。ところが「しちは?」とひとつだけ聞くと、また「しちいち」から指を折って数えはじめる。一方で、年長さんの家では「そろそろ九九を始めたほうがいいのかな」と迷う声も聞こえます。九九の覚え方には、どんなコツがあるのでしょうか。そして、覚えられない、嫌がるときはどうすればいいのでしょうか。

この記事では、学校でいつ・どんな順番で九九を習うのか、覚える前に大切な「かけ算の意味」、唱え方の決まり、上がり九九・下がり九九・ばらばら九九の練習、つまずきやすい7の段・8の段のコツ、記憶の研究から分かる復習のしかた、家でできる遊び、そして最後に Dino Kids の新しい「くく」を紹介します。
九九は何年生で習う? 何歳から始められる?
九九は小学2年生の算数で習います。文部科学省の小学校学習指導要領(平成29年告示)は、第2学年の内容に「乗法九九について知り,1位数と1位数との乗法の計算が確実にできること」を挙げています。多くの教科書では2年生の下巻、2学期ごろにかけ算の単元が来ます。
段の順番は、1の段からではありません。各地の指導計画を見ると、まず5の段と2の段、次に3の段と4の段、そのあと6・7・8・9の段、最後に1の段、という流れが一般的です。5の段は時計やお金、2の段は「2、4、6、8」と数えた経験とつながりやすく、入口に向いています。学校によっては、段ごとに先生の前で唱える暗唱チェックもあります。
では、年長さんから始めるのは早すぎるでしょうか。オーストラリアで小学校1年目の子ども18人(平均5歳6か月)を調べた小さな研究では、かけ算を習う前に15人が、絵や具体物で「同じ数ずつのまとまり」を作れました(Cheeseman ら、2020年)。5〜6歳の子には、かけ算の意味に気づく力がすでにあるということです。
ですから年長で取り組むなら、81の九九の暗記ではなく、おやつを同じ数ずつ分ける、2とび・5とびで数える、といった遊びが合っています。2の段・5の段まで覚えられたら十分です。6・7・8の段は、学校で習う6〜7歳ごろのほうが無理がありません。入学前に先取りするより、数を好きなままでいることのほうが大切です。入学準備の全体像は小学校入学準備の記事にまとめています。
覚える前に「かけ算の意味」をつかむ
九九は丸暗記すれば速く覚えられそうに見えます。けれども、音の並びとしてしか覚えていないと、一行忘れたときに自分で取り戻す手段がありません。意味が分かっていれば「しちは が出てこないけれど、しちしち しじゅうく に7をたせば56」と、自分でたどり着けます。
学習指導要領の解説は、かけ算を「一つ分の大きさ」×「幾つ分」と説明しています。1皿に5個ずつのみかんが4皿なら5 × 4。5 + 5 + 5 + 5 を短く書いたもの、という考え方です。家でも、次の順に進むと無理がありません。
- 同じ数ずつ:お皿を3枚並べ、いちごを4こずつのせる。「1皿に何こ?」「何皿ある?」「ぜんぶで何こ?」
- とびとびに数える:1こずつではなく、お皿ごとに「4、8、12」。2とび・5とび・10とびがいちばんやさしい。
- たし算のくりかえし:4 + 4 + 4 を「4が3つ分」と言いかえ、4 × 3 と書く。
- それから九九:ここまで来れば、九九の一行一行は「もう分かっていること」を速く思い出すための言葉になります。
学校でよく話題になるのが、かけ算の順番です。文章題では「1つ分の数 × いくつ分」の順で式を書くよう指導されます。一方で解説には、答えを求めるときは入れかえて計算してもよいこと、そして海外で長く暮らした子には、式を日本と逆の順に書く言語圏があることに留意すること、も書かれています。家で式の順番をめぐって言い合いになるより、「何こずつ、いくつ分?」と場面を一緒に言葉にするほうが、ずっと役に立ちます。
九九の唱え方には決まりがある
九九は「に かける に は よん」ではなく「ににんが し」と唱えます。学習指導要領の解説も、九九を「我が国で古くから伝統的に受け継がれている」唱え方として紹介しています。子どもが戸惑いやすい決まりは三つです。
- 答えが1けたのときは「が」が入る:いんいち が いち、にさん が ろく、しに が はち。答えが2けたになると「が」は消えて、にご じゅう、さんし じゅうに。
- 音が変わるところがある:いんいち、ににん、さざん(3 × 3)、さぶろく(3 × 6)、さんぱ(3 × 8)、ごっく(5 × 9)、ろっく(6 × 9)、はっさん・はっし・はっぱ・はっく(8の段)。
- 4と7の読み方:九九では4を「し」、7を「しち」と読みます。そのため、しちし(7 × 4)としちしち(7 × 7)、しし(4 × 4)とししち(4 × 7)のように、耳で聞くと似た行が出てきます。
言い方は地域や教科書、家庭によって少し違うことがあります。2年生なら、学校で習っている言い方に合わせてあげてください。
唱えることには理由があります。九九の答えは、言葉として記憶にしまわれやすいのです。ロシア語と英語を話す大人に、新しい計算を片方の言語だけで覚えてもらった実験では、正確な答えは、覚えたほうの言語で聞かれたときに速く出ました(Dehaene ら、1999年)。海外で暮らしていて、日本語の九九も身につけてほしいご家庭は、日本語で唱える時間をとっておくと安心です。家庭の中の母語については海外子育てと母語の記事でも書いています。九九の歌で覚える子もいますが、歌でも唱え方でも、最後に大切なのは、ひとつの九九をすぐに言えることです。
上がり九九・下がり九九・ばらばら九九
学校の練習でおなじみの三つの唱え方は、家でもそのまま使えます。
- 上がり九九:7 × 1 から 7 × 9 へ。リズムに慣れる最初の段階です。
- 下がり九九:7 × 9 から 7 × 1 へ。逆から唱えると、前の行の勢いで次の行を言えなくなるので、ひとつずつ本当に思い出す練習になります。
- ばらばら九九:順番をばらばらにして、聞かれた九九だけを答えます。テストで聞かれるのはこの形です。
ばらばら九九には九九カードが便利です。表に式、裏に答えを書いたカードを、答えを見ずに言えたもの、少し考えたもの、出てこなかったもの、の三つの山に分けます。翌日は「出てこなかった」山から始めましょう。上がり九九がすらすら言えても、ばらばらで止まるのは、ごく普通の途中経過です。
九九が覚えられない段のコツ:6の段・7の段・8の段
入れかえると、覚える数はぐっと減る
3 × 7 と 7 × 3 は同じ答えです。点を3列7行に並べて、紙をくるりと回すと一目で分かります。これを知っていると、6の段に入るときには、6 × 1 から 6 × 5 までは、もう知っている九九の入れかえです。2・3・4・5・9の段を覚えたあとなら、本当に新しいのは 6 × 6、6 × 7、6 × 8、7 × 7、7 × 8、8 × 8 の6つだけ。6の段に入る前に、子どもにこの話をしてあげてください。いちばん長く見える山が、急に小さくなります。
段ごとのコツ
- 6の段:5の段に1つ分たす。6 × 7 は 5 × 7 の35に7をたして42。
- 7の段:しちは ごじゅうろく(7 × 8 = 56)は、5・6・7・8と数字が並ぶ、と覚える子が多い九九です。しちし(28)としちしち(49)は、カードで並べて見くらべましょう。
- 8の段:はっさん・はっし・はっぱ・はっく、と音が変わる行が多い段です。8 × 4 の「はっし さんじゅうに」は、4の段の「しは さんじゅうに」と同じ答え。入れかえの相棒を一緒に唱えると定着しやすくなります。
- 9の段:両手を広げ、左から順に指に1〜10の番号をつけます。9 × 4 なら4本目の指を折ると、左に3本で30、右に6本で6、答えは36。答えの十の位と一の位をたすと、いつも9になります。
子どもが一行を忘れたとき、すぐに答えを言わずに「となりの九九は分かる?」と聞いてみてください。学習指導要領の解説も、かける数が1増えると答えはかけられる数だけ増える、という性質を2年生で扱います。しちしち しじゅうく から7つ進めば56。一度自分で見つけた答えは、十回聞いた答えより残ります。
毎日どれくらい? 覚えられない・嫌がるときの工夫
記憶の研究で、とくに確かな結果が二つあります。
- 見直すより、思い出す:読み直すより、自分で思い出すテストをしたほうが、1週間後によく覚えていました(Roediger と Karpicke、2006年)。九九の表を眺めて唱えるより、答えを隠して言ってみる、カードをめくる前に言う、のほうが効きます。
- まとめてより、間をあけて:同じ時間を使うなら、一度に長くやるより、日をあけて何回かに分けたほうが長く覚えていられます(Cepeda ら、2006年)。週末に1時間より、毎晩5分。
すぐ言えた九九は数日後、そして1週間後にもう一度。出てこなかった九九は翌日に。古い段と新しい段をまぜて聞くと、ばらばら九九の力がつきます。
嫌がるようになったら、量より雰囲気を見直すサインです。
- 九九の時間になると逃げる、やる前から「むり」と言う。
- 一度間違えると最初から全部唱え直させている。
- 親がストップウォッチを持っている。速さは、しっかり覚えれば自然についてきます。
- きょうだいや同級生とくらべている。
それより、きのう出てこなかった九九がきょう言えたことを、具体的に喜んであげてください。何か月も練習を続けても、どの段もなかなか定着しない、ほかの学習にも強い苦手さがある、というときは、ひとりで抱えこまず担任の先生に相談してみましょう。見て覚えるほうが得意な子、体を動かすほうが得意な子など、覚えやすいやり方は子どもによって違います。
おうちでできる九九あそび
- 九九の表を貼る:九九の表(1の段〜9の段)を印刷して、お風呂やトイレ、机の前に。毎晩ひとつの段だけ答えを指で隠して当てっこします。
- おやつを分ける:お皿3枚にクッキーを2まいずつ。「ぜんぶで何まい?」。逆に「12まいを3皿に同じ数ずつ分けると?」。
- 身の回りのかけ算さがし:たまごのパック、窓のます目、ブロックのぽつぽつ。「何こずつ、いくつ分?」。
- サイコロ九九:サイコロを2つ振って、出た目をかけ算。年長さんはサイコロ1つと、2か5をかけるだけで十分です。
- 親がわざと間違える:「しちは ごじゅうし!」と言って、子どもに直してもらう。教える側に回ると、子どもはぐっと真剣になります。
- 聞き流す:車の中や寝る前に、九九を唱える声をただ聞く。意味が分かる前から、耳が唱え方に慣れていきます。
Dino Kids の九九アプリ「くく」
Dino Kids の「さんすう」に「くく」が加わりました。ホームで「さんすう」をタップし、「くく」をタップします。同じ「さんすう」の中のかんがえる さんすうと同じく、意味から暗唱まで、上の記事と同じ順番で進みます。全部で 10のユニット、48のレッスンがあります。
- おなじ かずずつ:おやつをお皿に同じ数ずつ分けて、いくつのまとまりか数える。
- 2・5・10とびで かぞえよう:カエルが数の線をジャンプ。
- かけざんは たしざんの くりかえし:4 + 4 + 4 を、かけ算の式にまとめる。
- 2の だん
- 5の だんと 10の だん
- いれかえと ならび:点の並びを回して、3 × 7 と 7 × 3 が同じだと確かめる。
- 3の だんと 4の だん
- 9の だん、1の だんと 0:指を使う9の段のコツつき。
- 6・7・8の だん:「あたらしいのは 6つだけ!」
- ぜんぶ おぼえよう:全ユニットをまぜた「まとめの れんしゅう」2つと「さいごの テスト」。

各ユニットは、絵と読み上げで説明する「まなぼう」で始まり、やさしい順の「れんしゅう」が3つ、最後にトロフィーがもらえる「テスト」があります。問題文は読み上げるので、まだ字をすらすら読めない子もひとりで進められます。選択肢の「まちがい」は適当な数ではなく、子どもが実際によく間違える答えです。7 × 8 なら、となりの九九の49や63、6の段とまぎれた48。どれを選んだかで、どこでつまずいているかが見えます。
「きいて、いっしょに となえよう。」
段のユニットでは、「まなぼう」と「れんしゅう」のはじめに九九を唱えるページがあります。日本語では、ディノが「しちいち が しち」「しちに じゅうし」と、学校と同じ唱え方で一行ずつ読み、いま読んでいる行が光ります。行をタップすると、その九九をもう一度聞けます。上から読むレッスンも、下から読むレッスンもあり、上がり九九と下がり九九の両方を練習できます。丸い矢印の「くりかえし」ボタンをオンにすると、ページを何度も読みつづけます。

段ごとに色が決まっていて、7の段はむらさき、というように、マップでも唱えるページでも同じ色が使われます。「7の だん」という字が読めない子も、色で段が分かります。日本語では九九は9の段まで唱え、10の段は「じゅう かける なな は ななじゅう」のように、ふつうの式として読みます。
「くくを きこう」
マップの上の「きく」ボタンを押すと「くくを きこう」の画面が開き、ひとつの段、または「ぜんぶ」の段を、止めるまでつづけて読み上げます。子どもは何もタップしなくてかまいません。ブロックで遊びながら、お絵かきしながら、唱え方を耳で覚えていけます。

「くくの にわ」と「5つ おさらい」
レッスンはレッスンごとに評価しますが、暗唱は九九ひとつずつ、何日もかけて見ていく必要があります。そこで「くくの にわ」では、九九のひとつひとつが植物です。すぐに正しく答えると芽から一段ずつ育ってひまわりになり、間違えると芽にもどります。枯れることはなく、赤い色も使いません。

1日後、3日後、7日後、14日後と、おさらいの日が来た九九があると、マップに「5つ おさらい」ボタンが出ます。最大5問の短いおさらいで、上で紹介した「日をあけて思い出す」をそのまま形にしたものです。答えの速さはアプリが静かに記録するだけで、カウントダウンも「はやく」という声も出ません。星が0個になることも、赤いバツもありません。保護者の方は「設定」→「学習の記録」で、覚えた九九と出会った九九の数、まちがえやすい九九を確かめられます。
学校の順番とのちがい
アプリのユニットは、年長さんからでも始められるように、2の段、5と10の段、入れかえ、3と4の段、9の段のあとで6・7・8の段、という順にしています。学校の5・2・3・4の段……という順番とは少し違いますが、最後に覚える81の九九は同じです。2年生で学校の段に合わせたいときは、「設定」の「すべてのレッスンを開く」をオンにすると、どのユニットからでも始められます。式は日本の学校と同じ「1つ分の数 × いくつ分」の順で書いていますが、答えを選ぶ問題で、かける順番のせいで間違いになることはありません。
知っておきたいこと
- 「くく」は、App Store の Dino Kids(iPhone・iPad、バージョン1.3.9以降)で使えます。Android版は準備中です。見当たらないときは、アプリをアップデートしてください。
- アプリ全体と同じく無料です。広告もアプリ内課金もなく、アカウントなしで使えます。Dino Kids は Digi Dinos が社会のためにつくっている製品で、収益のためのものではありません。
- レッスンと読み上げは、子どもが開いたときにダウンロードするので、最初はインターネット接続が必要です。一度ダウンロードしたレッスンはオフラインでも使えます。
- 問題、説明、絵は Dino Kids チームが自分たちでつくったものです。九九の唱え方は昔から伝わる言い方で、市販の九九の歌は使っていません。子どもに合わない問題や、気になる読み上げがあれば、dinokids@digidinos.com までお知らせください。
参考文献
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」第2章 第3節 算数、第2学年 A 数と計算(3)乗法。
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編」第3章 第2節 第2学年 A(3)乗法。
- Cheeseman, J., Downton, A., Roche, A., Ferguson, S. (2020). Investigating young students' multiplicative thinking: The 12 little ducks problem. The Journal of Mathematical Behavior, 60, 100817.
- Dehaene, S., Spelke, E., Pinel, P., Stanescu, R., Tsivkin, S. (1999). Sources of mathematical thinking: Behavioral and brain-imaging evidence. Science, 284(5416), 970–974.
- Roediger, H. L., Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.
- Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380.