目黒の さんま
はじめて さんまを 食べた とのさまが、その おいしさを わすれられなく なる おはなしです。
むかし、ある とのさまが 家来たちを つれて、目黒へ 馬で 出かけました。野はらを かけまわって いるうちに、とのさまは おなかが ぺこぺこに なりました。「はらが へった。なにか 食べる ものは ないか。」ところが 家来たちは、おべんとうを もって くるのを わすれて いたのです。
その とき、どこからか いい においが ただよって きました。近くの 家で、おひゃくしょうさんが さんまを やいて いたのです。「この においは なんじゃ。」「さんまと いう 魚で ございます。とのさまの 食べる ものでは ございません。」「かまわぬ。もって まいれ。」
とのさまは、じゅうじゅう やけた さんまを ひとくち 食べました。「うまい。こんなに うまい 魚は はじめてじゃ。」とのさまは あっと いう まに、さんまを ぺろりと たいらげました。
おしろに 帰っても、とのさまは さんまの 味が わすれられません。けれど おしろの ごちそうに、さんまは いちども 出て きませんでした。
ある 日、しんせきの 家に まねかれた とのさまは、「さんまが 食べたい」と 言いました。りょうりにんたちは、とのさまが おなかを こわしては たいへんだと 思いました。そこで さんまの あぶらを すっかり ぬき、ほねも ぜんぶ とって、ぼろぼろに ほぐして しまいました。「どうぞ、さんまで ございます。」
とのさまが ひとくち 食べると、ぱさぱさで ちっとも おいしく ありません。「この さんまは、どこの さんまじゃ。」「はい、日本橋の うおがしから とりよせた、いちばん よい さんまで ございます。」とのさまは くびを ふって、こう 言いました。「それは いかん。さんまは 目黒に かぎる。」ほんとうは、おなかを ぺこぺこに して、やきたてを 食べたから おいしかったのですね。
昔話をもとに、Dino Kids が子ども向けに文章を書きおこしました(CC0)。
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